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 今までに説明してきたクラミジアの他に、淋病や 梅毒、また、ウイルスによる性感染症である性器ヘ ルペスや尖圭コンジローマなどもかなり広がってい ます。ことに、抗生物質で治療し易くなった性病と 説明した淋病でさえ、性感染症に対する警戒心のな い日本では、今や、どんどん増えているという、大 変驚くべき状況にあります。その問題は後で説明す るとして、ここでは、現在、世界的にも最も注目さ れており、症状もなく、感染者が無自覚のままセッ クス・パートナーに感染させるHIV感染/エ イズについて説明しておきたいと思います。

 このHIV感染/エイズは、大々的なひろが りをみせており、WHOの報告では、今や世界 中に3430万人の感染者がおり、1999年だけで も540万人の新しい感染者が出ている新顔の 性感染症です。ぜひ人ごとと思わず、“身近に 迫りつつある感染症”として関心をもってく ださい。

 今や世界的には、“性感染症/HIV感染(エ イズ)”という表現が常識的になっており、エ イズと他の無症候の性感染症と同じグループ の感染症であるとの理解が、かなり行き渡っ ています。

 ところが、驚くことに日本では、“性感染症として のエイズ”に対する関心が、きわめて低くなってい るのです。これは、大きな問題点であり、非常に危 険な状況にあると言えます。殆どの人は、エイズは 自分には全く関係のない病気と思い込んでいるよう です。また、“この頃はあまり話題にもなりません ね”などという発言もよく耳にします。では、本当 に皆さんに関係ないのでしょうか?
日本国籍HIV感染者報告例数の感染経路別年次推移

 “薬害エイズ”はきわめて特殊な悲しい事件です が、その“薬害エイズ”も“性感染症によるエイズ” も、病気としては全く同じものなのです。

 また、HIV感染/エイズを特殊な感染症のように 考えて、一時みられたように、社会的に差別する風 潮のあったことも、全く理解し難いことです。性感 染症なので性交渉をもたない限り、特別な場合を除 いて、人にうつすことは全くない感染なのです。日 常生活上、普通の人々と何も変わりはないのに、特 別視するのは不思議でなりません。社会的に持たれ ていた、HIV感染例は何か危険な人だ、などという 偏見は、全く理由がないものであるといえます。厳 しい病気と闘っている人々を、温かく支える福祉の 立場を忘れないで欲しいと、強く主張しておきたい ものです。そして、薬害エイズでも、また、性感染 症としてのエイズでも、病気と闘っていることはま ったく同じことなのです。

 ところで、そのHIV感染/エイズは、日本でも今 や性感染症として、異性間及び同性間の性交渉の中 で罹っていて、上にある図のように、かなり 急速に症例が増えつつあります。ことに若い日本人 男女が日本国内で感染している例が増加しているこ とが注目されているのです。

 最も重大な問題は、HIVに感染してもCD4リンパ 球が著しく減少してしまうまでは、殆ど無症状 のため、抗体検査をしない限り、本人も全く気 付いていないことが殆どなのです。そのため、無 自覚のうちに、精子や腟分泌物の中にいるウイ ルスをセックス・パートナーに感染させている ことも少なくないのです。

 少しでも多くの人が、エイズを無症候の性感 染症の一つであることを正しく理解して、自分 のため、また、パートナーのためにも、進んで HIV抗体検査を受けるようにしたいものです。 HIV抗体検査がもう少し普及し、隠れたHIV感染 者が感染を知り、治療をするようにならなけれ ば、日本の流行予防対策はなかなか成果を上げ ないのではないでしょうか。近年の医学の進歩によ り、エイズも早期に発見し、治療すれば、社会生活 を続けることが可能となり、慢性疾患に近いものに なったという認識になりつつあります。そのため、 外国では積極的に検査することがかなり普及してい るのに、日本では、むしろ検査する人が減りつつあ るのが心配でなりません。

 また、HIV感染/エイズは性交渉では感染しにく い、という解説をときどき見かけます。性交渉によ るHIV感染は、下図に示すように、確かに“針刺事 故”と同じような高い感染確率なのですが、なぜか、 病院で起きた、看護婦さんがエイズ患者さんに注射 したあと、その針を誤って自分の手などに突き刺し てしまった“針刺事故”では大騒ぎをするのに、同 じ程度に感染する性交渉での感染を少しも心配しな いのが不思議でなりません。

 パートナー同士が、無症候感染している可能性を 考えて、気を付けて慎重に、コンドームを使っての 予防対策を考えるべき時がきているのです。

 “性感染症としてのエイズ”は、日本では、感染 者の将来予測数でも1万人に1人ぐらいとなってい ます。しかし、これまで述べてきたように、その数 は徐々に増えてきており、かなり身近に迫りつつあ る感染症であるとの認識をもってほしいものです。
HIV(エイズウイルス)が伝染する確率
sub-title  もうひとつ、特に忘れてはならないことは、今ま で説明してきた“エイズ以外の性感染症”であるク ラミジアや淋病、梅毒、ヘルペスなどと“エイズ” が、お互いに密接な関連性をもって、感染がひろが っていることです。

 クラミジアや淋病に感染して局所が荒れている性 器には、HIV(エイズ・ウイルス)がとりつき易い のです。ことに潰瘍が出来る性器ヘルペスとか梅毒 などは、なおさら感染しやすいのです。これらの他 の性感染症にかかっている人は、性感染症としての エイズに、普通の人より3〜4倍も感染し易いとされ ていることを知っておくべきでしょう。

 しかも、そのような性感染症に感染し易い、コン ドームを使わない無防備な性生活をもっていること が、同じ性感染である無症候のエイズにも、同じよ うに気付かないうちに感染する可能性が高いと言っ て良いのです。ですから、エイズが性感染症である ことは知っていても、中には、他の性感染症 に罹る程度ならば、大したことはないと思っ ている人もいるようですが、それが極めて危 険な考えであることを自覚すべきでしょう。 いつエイズにかかってしまっていても決して 不思議ではないわけです。

 今や、世界の殆どの国々では、エイズ予防 キャンペーンとして、とにかく“検査し易く、 エイズと違って、たとえ感染していたとして も治療可能なので、検査することにあまり心 理的抵抗のない、クラミジアや淋菌などの性 感染症”の検査の普及につとめ、性感染症全 体の流行抑制に力を注いでいるのです。また、 性感染予防の基本であるコンドームの正しい 使用法の啓発普及にも、かなり精力的に努力してい ます。その成果として、下図のように、欧米先進国 ではすでに、HIV感染流行を抑え込み、流行のピー クは過ぎたとされているのです。

 いまだにクラミジアや淋菌感染症が急増を続けて いる日本では、“性感染症としてのHIV感染”の現在 の状況は、まだ少ないから安心だと言って、呑気に 構えている間に、大きく広がる可能性がかなり高い のです。そのため、心ある諸外国のエイズ研究者達 は、日本における淋病やクラミジア感染症が急増し ている状況を、エイズ大流行につながるのではと、 大変心配しています。日本人自身が、性器クラミジ ア感染や淋病、梅毒などの性感染症の流行抑制こそ、 “性感染症としてのエイズ流行予防”につながる対策 そのものであることに目覚めるべき時が来ているの です。そのために、公衆衛生行政や医学界は、総力 をあげて頑張っていくべきであるといえましょう。 クラミジア(正しくはクラミジア・トラコマーテ ィス)は、昔“眼のトラコーマ”として大流行して いたのですが、最近は日常生活の衛生状態が改善し たため、すっかり影をひそめてしまいました。しか し、その代わり、今や、“性器のトラコーマ”となっ てひそかに大流行しているのです。
アメリカの淋菌感染症とエイズの感染者数の年次推移

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