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“性の影”である“望まない妊娠”と“恐ろしい性 感染症”。この二つのうち、どちらがより深刻かと言 う話題をよく耳にしますが、そのどちらも同じぐら い大変な問題なのです。
ただ、今やピルが解禁になって、妊娠のほうは取 りあえず避けることが可能になってきました。今や “性感染症に罹る”方が、より現実に注意しなければ ならない問題点となって来ています。そこで、ここ では、性感染症問題に焦点を合わせて説明をしたい と思います。
かつて“性病”といっていた性感染症は、歓楽街、 今日でいう“フーゾク”などで遊んだ男性達が感染 した、自業自得の“不道徳な”不潔な感染症とみな されていました。そしてそんな遊びを した男性から病気をうつされる女性は、 まことに気の毒な人であると、同情さ れてもいました。その為、歓楽街の女 性達とそこで遊ぶ男性達を啓発教育し、 病気を広げないようにしさえすれば、 その忌まわしい感染は、それほど広が らないはずである、というのが当時の 人達の考え方でした。
ところが、今や世の中が大きく変わ り、性病は今までのような“特別な 人々が罹る感染症”ではなくなってきて、 普通の性生活をもつ人々が、かなり罹っている病気 にまでなって来たのです。その状況に対するため、 1999年(平成11年)4月から施行された“感染症予 防新法”では、“性病”は“性感染症”と呼び名を変 え、しかも他の感染症、例えばインフルエンザとか 結核とか、また、エイズなどと肩をならべた感染症 として扱われるようになりました。性感染症は特別 な人達のみが罹る、別扱いするような病気ではなく、 今や性生活をもつ人なら、誰が罹っても決して不思 議ではない感染症、となってしまっているのです。 言うならば、性生活の“生活環境汚染”のようにな っており、性生活をもつ人々の“生活習慣病”とさ え考えられるようになっています。まずその認識を 持てば、性感染症問題が自分の身近に迫って来てい ることが理解いただけると思います。誰でも罹る可 能性があるもので、たいしたことではないのだと考 えてはいけません。困った、恐ろしい感染症である ことをよく理解してください。
“世の中が変わった!”とよく言われますが、何が 変わったのでしょうか?
性病時代に流行していた梅毒や淋疾、軟性下疳、 また性病性リンパ肉芽腫など(これらの病気がどん なものか、あとで説明します)は、感染したことが自 分でわかるような症状や病変が、性器やその周囲に 出て来ます。そのため、感染した人は比較的早く感 染に気付き、治療を受けていました。したがって、“感 染の輪”はそれ程大きく広がりませんでした。歓楽街 に遊びに行かない普通の人達が、自分には関係ない 病気と考えていても、さして不都合はなかったわけで す。
ところが、最近は、そのように症状の出る“性病” が、症状の出にくい、しかも治りにくい“性感染症” にさま変わりしてきているのです。
それは医学の進歩により、ペニシリンを始めとす る強力な抗生物質が創り出され、治療が比較的容易 になってきたため、症状が出やすかった古い型の性 病群は次第に影をひそめるようになり、それらに代 わって、症状のあまり出ない性器クラミジア感染症 や性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、B型肝炎、HIV 感染/エイズなど、ウイルスによる新しい性感染症 群が台頭してきた結果によるものなのです。そして それらは、性生活をもつ一般市民の人々の中に、ひ そかに大きく広がり始めてきてしまっているのです。 今や、症状の殆ど出ない性感染症群が、知らないう ちに大流行してしまっている時代になっているので す。しかも、クラミジア感染症以外のウイルスによ る性感染症は、治療が大変難しいのです。
さらに、最も恐れられている“エイズ”が、その ような症状のない性感染症群の中にしっかりと仲間 入りして、世界中に広がり流行し、すでに感染者が 全世界で4000万人に達しています。そして、世界で 毎日1万6千人の新しい感染者が出ているとされ、そ の90数%は性感染症として蔓延しているのです。そ のため、この“新しい性感染症時代”の到来が社会 的に大問題になってきているわけです。これは日本 でも同じことです。
そのように新しい性感染症が流行して来ている一 つの大きな理由は、抗生物質で古い型の性病が容易 に治療出来るようになったことから、多くの人々は、 今まで恐れていた性病に対する危機感を、すっかり なくしてしまったことによるのです。性病に対する 恐怖感がなくなり、また、たとえ感染しても心配な いという安心感が広がってしまったのです。一時は、 歓楽街へ遊びに行く時などでも、ペニシリン薬を事 前に飲んでさえいれば安心であり、“性病恐るるに足 らず”というムードが、人々の間にかなり流れてし まった程でした。
ところが、そういう人々の“危機感喪失”という心 の隙をつくように、ペニシリンが効かない“クラミジ ア”やウイルス性の性感染症である“性器ヘルペス”、 “尖圭コンジローマ”、“B型肝炎”、そして“エイズ” などの新しい性感染症がひそかに大きく広がり始め てきたのです。これらの新しい性感染症群は、淋病・ 梅毒時代と大きくさま変わりして、感染しても殆ど 症状がなく、自分では感染の自覚が出来ない“症状 の出ない性感染症時代”に突入してしまったのです。
そのような現状にも拘わらず、多くの人達は、性 感染症に罹るということなどあまり心配せず、予防 のための正しいコンドーム使用に、十分な配慮をし ていないのが現状なのです。しかし、それは性感染 症流行の実態を正しく知らないから、そんな呑気な ことを言ったり、したりしていられるのではないで しょうか。その上、罹ったとしても、今までの性病 のように、すぐ治療すれば癒すことが出来ると思い こんでいるのです。ところが、何度も説明したよう に、無症候の性感染症は、発見されることが少ない ばかりでなく、クラミジア感染症はともかく、他の 多くのウイルスによる感染は、現在は、まだよい治 療薬がないものが殆どなのです。
ことに、今世界的に注目され最も恐れられている エイズが、あきらかな無症候の性感染症として、日 本でもかなり広がりつつあることを知らない人が多 いのです。是非、正しい現状認識をして欲しいもの です。
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(財)性の健康医学財団