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21世紀はウイルス性性感染症時代
 前項まではクラミジア・淋菌などの細菌性・性感染症について累々述べてきたが、診断しさえすれば抗菌剤で治療可能な細菌性感染症でさえ、このように公衆衛生・厚生行政としての最優先課題となっているほど、残念ながらわが国が医療後進国であるといえよう。
 世界的な医療先進国レベルでの性感染症の関心事は、むしろそのようなクラシックなものでなく、冒頭で取り上げたエイズ/HIV感染症を代表とするウイルス性・性感染症に向けられつつあるのである。
 ただ、そのウイルス性の性感染症群としては、エイズの他にHSVによる性器ヘルペス、HBVによるB型肝炎、HCVによるC型肝炎、HPVによる尖形コンジローム・性器癌(子宮頸癌・陰茎癌等)などが有り、それぞれ注目を集めつつある。そして問題なのは、これら感染症の殆どが、重症になるまでの初期の臨床症状があまりないにも拘らず、他人への感染性はあるということである。その上現在までのところ、それらの病原ウイルスを除去する治療薬が残念ながら開発されていないのである。
 その状況を嘆きつつ、専門家たちは21世紀は“根治治療ができない無症候性の性感染症時代”に突入したと称しているのである。
 HSV(Herpes simplex virus)は感染後に神経内に住み着くと、一生消えることなく再発を繰り返す。
 HBC(Hepatitis B virus)は若者の間に感染症として広がり始め、最近はハネムーン肝炎などと話題となったりしている。そしてその流行の激しいアメリカなどでは若者へのワクチン予防対策が積極的に進められつつある。
 HCV(Hepatitis C virus)もB型肝炎ほど性交渉でうつらないとされてはいるものの、最近わが国では注射器事故や輸血等と関係なく、若者の間で、性交渉を介して伝染伝播しつつある。ことにクラミジア感染などで性器局部が荒れ、易感染性の高くなっている若者にHCVの性的感染例が出つつある。
 しかし一般的なそれら感染症に対する関心は、それらウイルス感染はエイズ/HIV感染ほどの深刻・重大なものではないと考えられているためかかなり低い。ただ、もう一つのHPV(Human papilloma virus;ヒト乳頭腫ウイルス)による感染症に限っては、エイズ/HIV感染症と同程度の深刻な問題を持つ性感染症として、最近注目が集まり始めている。
 HPVは感染細胞の異常増殖を促進し、腫瘍化させる性質がある。それには80種に余る型がある。手足に疣を作る1型また尖形コンジロームを作る6型、11型などは、頻回に再発するなど臨床的に種々問題はあるものの、一般的にはさほど深刻な問題としてクローズ・アップされていない。、ただ悪性型HPV16型、18型、32型、52型などは、それにより発生する腫瘍が悪性化し、癌発生に結びつく感染なのである。ことにその悪性HPV感染の中で医学的にも社会的にも特に注目され始めているのが、子宮頸癌発生との関係であろう。先日のパリでの性感染症関連国際学会でも“No more death by cervical cancer(子宮頸癌)”という標語が掲げられ、その診断・予防問題がかなり真剣に議論されていた。
 子宮頸癌を性感染症が原因などというと、一般の人々にはかなり驚くべき事実であり、センセーショナルな話と考えられるが、この20年来の医学研究の進歩により、この問題の解明が著しく進歩しつつある。





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