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そのような無症候化問題は別としても、医療施設で症状が有り淋菌感染症として診断される女性症例数は、図8 の如く、高校生レベルでは女性の方が多い。それが、18才以上の年齢になると、図5 のクラミジア感染症のパターンと極めて対称的に、完全に男性優位になる。なぜこのような差が生ずるのか、極めて興味あるところである。
男性尿道炎は、通常は尿道分泌物が多く、しかも感染局所の炎症性変化が強いため、尿が強く沁み、排尿痛が激しいので、医師を受診する可能性が高い。ところが女性の性器炎は、排膿以外は殆ど無症状なのに、最近菌の弱毒化傾向で、その排膿も少なくなったため、殆ど感染が自覚されない。それが男女の症例差につながっているといえよう。ただ、高校生年代だけは男女有症症例数が同等であるのは何故かということになる。その年齡の女性は、年上の淋菌感染男性との性交渉の機会がかなり多いことや、感染部位の円柱上皮が子宮頸部の外に大きく露出し易感染性が高くなっていることなどが重なって、そのようになるものと考えられている。
ただ注目すべきは、そのように無症候感染化傾向が強いにも拘らず、具体的にはっきり症状が出て、医師に淋菌感染症と診断される女性症例が、図7 に示すように、クラミジア感染症同様、最近増加傾向が目立ち始めていることである。この所見は、淋菌感染もクラミジア同様、かなり女性側にも広く浸透しつつあることを強く示唆しているといえる。
では何故、そのような淋菌感染が著しく無症候化しつつあるのかが注目されるところである。
それは、臨床分離淋菌の薬剤耐性化が著しいことと関係があるように考えられている。わが国で最も淋菌治療に賞用されていた新キノロン系抗菌剤のみでならず、新セフェム系抗菌剤に対してさえも薬剤耐性菌が増えつつある。ただ、東南アジア諸国では、キノロン系やセファロスポリン系薬剤が、わが国程多用されていないため、それら抗菌剤への耐性化はさほど進んでおらず、むしろかつてわが国で問題となっていたペニシリン耐性淋菌による感染が拡がっている。国により治療学上の差異があることも、東南アジア諸国との人的交流のある現在、感染源により治療方針に差があることに考慮を要することであろう。
なお東南アジア諸国でもう一つ問題なのは、流行しているクラミジア検査が、検査キットが高価なため、わが国ほど積極的に行われておらず、東南アジア諸国でどの程度の大流行があるのか、殆ど明らかにされていない。そのため症状のないクラミジア感染症は、症状の重い淋菌感染症(東南アジアの場合、かつてのわが国のように膿汁分泌の多い症例が未だに多いとされている)の影に隠れて、無視されてしまっていることが多い。
そのような事情から東南アジアでの男子尿道炎、女子性器炎の場合でも、淋菌とクラミジアの混合感染例も少なくないと推定される。そのため淋菌治療後に残る後淋菌性尿道炎(Post gonorrheal urethritis)におけるクラミジア感染残存の可能性に対し、医療学的な配慮がかなり必要ではないかと考えている。
現在のような淋菌・クラミジア両者の著しい流行の情況からは、男女とも尿道、性器の炎症性感染の場合、淋菌及びクラミジア両方の検査が強く求められるといってよい。
ただこの両感染症の同時チェックは、わが国でさえも、現行保険制度の下では審査が厳しく、炎症性の性感染症症例の初診時に、両検査の同時施行は必ずしも常に受け入れられるとは限らない。、現在の両感染症の拡がりを公衆衛生学的見地から抑制していくためにも、両者同時検査は必須の検査法といって過言ではないのだが─。
なお、後淋菌性尿道・性器炎でも、クラミジアが必ずしも分離されない。そしてクラミジア分離のない非淋菌・非クラミジア感染例の約2割はMycoplasma genitalium感染があるとされている。ただ、治療学的にはクラミジア治療薬により、Mycoplasma に対してもほぼ同様な治療効果が得られるのは大きな救いといえる。
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図8 淋菌感染症の10万人・年対罹患率 (12歳〜22歳:9府県合計 熊本・他1))
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