研 究 計 画

HIV感染は今や性感染症(STD)として世界的に流行している。その流れにそって、本邦も最近の登録症例の殆どはSTDとしての感染例であり、しかも急増傾向を示している。近い将来、大きな流行に発展する可能性が危惧されている。昨年12月11日のLancetにも、その日本のHIV/STD動向の危険性が論ぜられており、国際的にも注目されているところである。

先進国の殆どは、すでにHIV/STD流行上昇のピークが過ぎつつあるのに、なぜ医療先進国を自負する本邦においてそのような状況にあるのだろうか。その最大の原因は、一般市民のHIV/STDへの危機感の喪失にあると言ってよい。それは、一時極めて不幸な薬害AIDS問題が起きたため、ジャーナリズムや国民の注目がそれに集中し、HIV感染は極めて特殊な感染症としての認識が強まり、STDとしてのHIV感染への関心が極めて低くなってしまった。殆どの人は、自分には関係ない感染症と信ずるようになり、国際的に常識となっているHIV/STDへの危機感が忘れられてしまっている。

そのため、HIV/STD予防のためのコンドーム使用率が低くなり、各種STD及びHIV感染が急増するようになってきたと言ってよい。しかも最近の性の自由化がその傾向を助長している。殊に昨年ピル解禁があり、避妊のためのコンドーム使用さえ激減する可能性が高くなり、ますますHIV/STD流行を助長する社会的風潮が強くなりつつあり、専門家の間では強い危機感が示されている。

そのため、医学や公衆衛生行政の担当者達はかなり積極的に予防のための啓発、殊にコンドーム使用率上昇のための啓発活動を行っているが、一般市民への浸透度はきわめて不十分であり、その現実的な効果も殆どみられていないのが実状である。

コンドーム使用率が5%上昇するとHIV感染が20%は下がるという疫学研究もあることから、今やいかに一般市民にHIV/STDへの危機感を高め、コンドーム使用の必要性を浸透させるかが、本邦の国民衛生上急務になりつつあると言って過言ではない。

若者を中心にHIV/STD感染にさらされる可能性のある人々へ、現実にコンドーム使用のための啓発を行うには、医学や厚生行政の専門家グループの活動だけでは限界があり、やはり各種の情報メディアを通じての啓発を計る以外にないというのが、最近の大方の意見になりつつある。

そこで今回、そのような切実な危機感の結果として、各種情報メディアの協力のもとHIV/STD予防啓発キャンペーンを具体的に実施する計画が立てられた訳である。ただ、今までの社会的風潮から公的に性を語り、コンドーム使用を論ずることがタブー視されている本邦において、その具体的活動を行うことは、かなり勇気のいることであると言ってよい。しかし、誰かがそれを行わねばならない状況の中、性の健康医学財団を中心にそのような危機感を持つ情報メディアや医学関係者が研究班を結成し、多くの社会的抵抗も覚悟の上で、その活動を積極的に実行すべく期しているところである。

ただ、問題なのは、本邦では今も“性”をタブー視する傾向が強いため、このように公的に欧米並のコンドーム使用の啓発を行うことは、必ずしもスムースに社会的に受け入れられることは難しいとも考えられる。

そこで、簡単なアンケートを行い、一般市民のコンドーム啓発への反応(賛同または反発)を具体的に調査していく。その調査成績を詳細に分析した上で、より受け入れやすい啓発法を工夫した上で、より有効性の高い手段を検討していく。それにより、公的にコンドームを語ることへの一般市民の心理的抵抗を徐々に解きほぐしていくことが、ひいてはHIV流行予防の具体的な方策として実を結んでくるものと考えている。

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